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5歳になるムスコはほぼ毎ばん、
手縫いの甚平に袖を通す…
着古した甚平はむすこのお気に入りの一つだ。

2年前に俺が作ったその甚平はもう裾口が擦り切れ、
濃紺だった「井」の字の文様はすっかり色褪せている。

素人の作品なので、
背中の正中線のつなぎ目の模様がかみ合っていない上に
縫い目の間隔もたどたどしいが…

今もオレの横で、
古びた着心地の良さに包まれて遊ぶムスコは、
昭和の香り漂う「バカボン」のようであり微笑ましい。

しかしこの質素な服には、
あたしと旦那の特別な想いが染み込んでいる。

当時、3歳前の男の子の小さな肉体に、
点滴や輸血など様々な処置が施されることになり、
わたしと主人は呆然とそのことを受け入れた。

受け入れることのほかに、
父母であるあたくしたちに
出来ることがあまりにも無かったからだ。

血液型が違うので
血を分けてあげられる訳でもなく、
辛い服薬と同じ苦しみを共に味わえるでもなく、
医療処置を自ら行ってあげられる訳でもない…

父母なのに何もしてあげられない…

病院での1日一日は異様に長く感じられる。
不慣れな付き添いの取り敢えずの時間潰しに型紙と布を買い、
裁縫箱を病室に持ち込んで甚平を縫うことにした。

病院が貸し出す寝間着を着せると、
病院や病気に息子を取られてしまうような気がして、
13時もよるも出来るだけ家の衣類を着せてはいたが、
それだけではなにか足りないという気がしていたのかも知れない。

得体の知れない衝動で、
眠れない夜には病室での作業に黙々と没頭した。

そうして、
わたくしの荒れた手のひらに
縫い針の刺し傷が目立つようになった頃に、
ようやくそれは完成した。

仕上がっていく様子を
連日見ていた息子はたいそう喜んでくれた。

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